畑下
欧米では経営者がひとつの職業になっていますが、日本では営業部なら営業部、製造部なら製造部の代表が取締役になるので、アカウンティングやファイナンスのトレーニングを受けないまま経営者になっていきますね。
吉成
キャッチアップ型の産業構造の頃はそれでも機能したんです。でも、今後を考えたときにいちばん致命的なのが、環境の変化に弱いことですね。トップマネジメントからトップダウンでおりてくるところが弱すぎる。環境変化を見ながら収益の機会を捉えるという舵取りになったときに、営業は営業、製造は製造などというわけにはいかないですよ。トップの研修が早急に必要だと言うのはそこにあります。
畑下
たとえ社長でも、強制的に会計の勉強をさせるぐらいに、組織で教育を行っていかなくてはいけないですよね。日本企業は、今まで個人の自己啓発に任せる部分が多かったですが、国家の危機的状況にあっては、会社として組織的に強制することが必要だと思います。
吉成
それは私も賛成で、役員に必要な勉強は、1日、2日でできるものではありません。たとえば1週間ぐらいしっかりやって、あとは3ヵ月に1回でもいいから、それぞれが課題を持ち寄って、自分の実務に密着させた形で自分はここまで理解が深まった、次はここまで深まったと、そうして1年ぐらいたったら経営者として数字を見る力が相当身に付いているというふうに、「計画だった人材育成プログラム」が必要だと思います。
平林
経営者に会計の研修が必要ということは私たちの一致した意見ですが、実際には経理担当者や初級者への研修の方がニーズとしては多いです。そこの部分で、IFRSを見据えた研修はどのようにするのが良いでしょうか?
吉成
どの企業にも一人や二人、IFRSをリードできる専門家がいます。そういう人は外部研修を受けて自ら学んでいますから、その次にくる人たち、たとえば本社の主計の人たちに焦点を当ててIFRSの本質的なところの研修をするのはいいと思います。あと一歩のところにいる人たちをぐっと引き上げるのは、即効性を考えると必要なことですね。
金子
IFRSの研修としては、なぜそういう処理をするのか、なぜそういう表示をするのかの「なぜ」の部分を強調した教え方が重要です。これからはまさに原則主義ですから、このなぜの部分を我々はもっと教えていかなければいけないし、学び取ってもらわないといけません。
吉成
会計には考える部分と覚える部分、習熟する部分がありますから、レベルに合わせてプログラムする必要がありますよね。レベルが上がるほど考える部分が多くなりますので、金子さんがおっしゃる「なぜ」と問いかける研修が有効です。一方、高度で言うと、簿記3級あたりの山を飛行している方には、習熟する部分、覚える部分が色濃くなると思います。
畑下
私がいつも抱えている問題としては、会計の世界は、初級編があって次は完全に最上級の世界に入っちゃうんです。簿記の話をしたら、次はもうIFRSの世界に入ってDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)の話になる。この初級編と上級編をつなぐところで、皆さんがすっとIFRSに入って行けるようにと思うのですが、これが難しい。
吉成
そこの引き上げは、いま我々が研修講師として直面している問題ですよね。やはりそれぞれのランクに応じたプログラムを作って、コツコツと引き上げていくしかないんじゃないでしょうか。
金子
研修のスタイルとしては、ケーススタディに重点を置くことだと思います。この会社は連結対象になるか、ならないかといったケースを想定して考えさせる手法が必要になってきます。あと、IFRSの研修内容としては、財務会計と管理会計の違いを理解させることも重要だと思いますよ。
吉成
で確かにこれからは、財務会計と管理会計の指向しているものが融合しつつあって、投資家の目線は経営者の目線であるというところに収斂していますから、管理会計に焦点を当てるのもいいですね。だいたい競争の激しい業界の人ほど管理会計の重要性を知っています。管理会計に力を入れてきた人たちは、ぜひ財務会計の知識も身に付けて、投資家に対して経営責任を果たす、投資家にアピールするという意識を高めていただきたいと思います。