平林
最近のIFRSの話題を見ていると、経理部門だけの話と捉えられているようですが、経営者こそ必要だと私は感じます。いま経営者向けのIFRS研修はやっていらっしゃいますか?
金子
経営者向けは少ないですね。
平林
そこに問題はないでしょうか。
金子
非常に問題だと思います。IFRSについては、スタンフォード大学のメアリー・バース氏が「There are no right answers」と言っていました。これが原則主義を物語っていて、これからどういうふうにしていくのかは、会社が個々に考えていかなくてはいけないということです。つまり、まず経営者が考えなければいけないわけで、経理部門がどう処理するかという各論に終止しても意味はありません。
畑下
経営がIFRSをどう判断するか、その解釈の仕方で、実際のビジネスに与える影響を限定的にすることも、あえて拡大解釈してチャンスを拡げることもできますよね。その権限が経営者に与えられていることが理解されていないように思います。
吉成
おっしゃる通りで、IFRS教育の優先順位でいうと、経理担当者よりも経営者です。なかでも空白になっているのは、今日現在の経営者ではなくて、これからの経営者ですよ。
日本がアドプションを迎えた後、積極的な攻めの経営を行う経営者もいれば、最小限にインパクトをとどめる経営者もいるでしょう。そのときの経営者というと、いまの部長さんクラスじゃないですか。つまり部長さん、課長さんなど次期経営陣候補である管理職の皆さんこそ、IFRSの時代に向けてその本質をしっかり学んでおく必要がある。これは人事教育担当の方にぜひお伝えしておきたいことです。
吉成
これはIFRSのはるか手前の話になりますが、私が日本の経営者と話していて感じるのは、欧米の経営者に比べて経理や会計の基本知識が圧倒的に不足しているのではないかということです。
金子
それは私も感じます。そもそも「利益は意見表明である」ということが分かってないですよね。会計は経営者の主張であり、まさにアサーションですが、そこがまず分かってない。そこのところは欧米の方と比べたら、明確に劣っていますよ。欧米ではMBAの存在があり、トップマネジメントになるための典型的なキャリアパスになっています。MBAくらい出ていなければ対象外ですから。
平林
MBAで習うのは具体的にどのようなことなんでしょう。
金子
戦略、マーケティング、組織、ヒューマンリソース・マネジメント、アカウンティング、ファイナンス、最近ではITマネジメントなどもあると思います。
吉成
グローバルでは、MBAレベルのアカウンティングやファイナンスの知識は、経営者にとって"共通言語"ですよね。でも本当は役員の仕事はその先ですから、われわれが強烈に主張しなければいけないことは、「共通言語を知らないのは論外ですから、これはもう一刻を争う」ということなんです。現在の経営陣と、次から次の次ぐらいの経営陣たちに早急に手を打って、とにかく共通言語をマスターしてくださいと、そこでやっとグローバルでは当たり前のレベルですから、そこから先、今度はあなたの経営者としての考えを構築していってくださいということです。