予想される「監査法人の混乱」
Impression・ラボ座談会 vol.3
吉成英紀氏:(有)吉成コンサルティング代表取締役、コンサルタント金子智朗氏:ブライトワイズコンサルティング合同会社 代表社員、公認会計士 税理士平林亮子氏:合同会社アールパートナーズ、平林公認会計士事務所 代表 公認会計士畑下 裕雄氏  株式会社プロキューブジャパン 代表取締役 公認会計士 税理士 公認内部監査人
監査法人の失われた10年
平林
どうして一人ひとりが判断できないんでしょう。
吉成
これは98年以降が顕著なんです。厳格監査の動きがあり、品質管理が強く言われるようになった。つまり監査担当の最終責任者だけでは何ごとも決められない審査の仕組みというものを、監査法人はこの10年間、一生懸命作ってきたわけです。細かな実務指針や適応指針があったので、ビジネスの実態をみて判断しなきゃいけないということがおろそかにされてきたきらいがあります。それによってビジネス感覚や論理的思考をなくした人が多いとすれば、この10年間で失われたものは大きいですよ。
平林
確かに、会計基準が細かく決められるようになって10年ぐらいですね。
吉成 
2000年4月1日以降に金融商品会計や退職給付会計がスタートしました。それらの分厚い実務指針が出てきたときに、僕はある意味で非常に困ったなという印象を持ったんです。こんなに事細かに指針で書いたら、当然これに頼ることになるな、と。判断の余地はないじゃないかと。もともと「企業会計原則」しかない時代は、みんな考えて判断していたわけですよ。あの頃の良さと、98年以降の品質管理との折り合いの付け方、ここを真剣に解決しないかぎり、よりどころとする何かにすがっていく構造になります。
平林
私が監査をしていた98年、99年のころは、新しい金融商品がでてくると、会社の方たちと「どうやって処理する?」「時価でやったほうがいいんじゃないか」という話をして、会社が方針を出していく手伝いもしていたんです。そういうコンサルティング機能がいまは発揮できないようですね。
金子
監査法人が「私たちに聞かないでください」と言っていますよね。
吉成
監査クライアント以外の会計の質問には一切何も答えない。これはもう監査法人の鉄則です。監査クライアントに聞かれたときにすぐに返事をしない。監査が終わる頃、間に合わないタイミングになってから「認められません」と言う。「概ね3年」と書いてあると、企業の実態にかかわらず「3年は3年ですから、それを超えると厳しいです」と言う。こういう人たちが「3年」をはずされたときにどうするかというと火を見るより明らかで、法人内の「専門家」に「先生、どうですか?」と聞いて、「法人としての最終決定が下りました」という話になるんです。
IFRSと弁護士の関係
金子
それはプロフェッショナルとしていかがなものかと思いますよ。たとえば弁護士は、大きな事務所にいても個人のプロフェッショナルな判断で動いていますよね。
吉成
弁護士はオピニオンレターを喜んで書きますよね。でも、日本の監査業界はオピニオンレターを実質的に禁止しています。職業的専門家として世の中に必要とされている会計アドバイザリー業務を放棄していますよね。
金子

IFRSの時代においては、国際間の紛争になることも起こりうるわけで、弁護士の業務も難しくなりますね。IFRSは法律ではないので、まさに実質判断というのが求められますから。

吉成 
クロスボーダーで行われている経済活動と、各国の国境を一歩たりとも越えない法制度との折り合いの付け方は、大変な課題ですよ。IFRSは法律じゃないということの深刻な議論がまだ世界で起きていないですよね。近々起きるんじゃないですか。
金子
その割には、IFRSの話題において弁護士はクローズアップされていないですよね。
吉成 

会計ルールが法律ではないということと、国境を越えて会計ルールが存在するということで、弁護士はIFRSからは遠い存在とされているんでしょう。だけどおっしゃるように、IFRSに基づく会計処理をめぐってお金の分配が変わる話が企業に起きて来るわけですから、弁護士さんの仕事に相当影響がありますよ。

監査法人はぬるま湯か
畑下

監査法人の現状は同じ業界としては憂慮しますが、コンサルティングをメインにやっている立場から言うと、ビジネスの住み分けがしやすくなるので、助かります。

平林

なるほど。そういう視点もありますね。

金子

コンサルタントって、監査法人から疎まれませんか?

畑下

疎まれます(笑)。監査法人としては、クライアントを囲い込もうとしますからね。

平林

私は会計士業界は視野が狭くて心配だなあという感じがするんです。資格試験の問題で盛り上がっていたり、合格者も監査法人に入ることだけを考えていたり。

吉成 

やはり危機感がないんですよ。大手監査法人といっても、企業規模でいうと中小企業です。それなのに就職したら安泰だと思って、ぬるま湯のなかにいるつもりになっています。それは過去の先輩方ががんばって温めたお湯が、まだかろうじて人が入れる温度だというだけなんですけどね。

畑下

確かに、先人たちが作った独占業務である監査だけを守ろうとしているのは感じますね。日本経済が拡大しているわけではないので、監査業務は維持するか下がるかしかないのに、それでも会計士を増やすということは、領域を広げたり質を充実させないといけないはずなんです。それなのに、「聞かれたことに対して答えません」では成り立たないですよね。

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畑下 裕雄氏  株式会社プロキューブジャパン 代表取締役 公認会計士 税理士 公認内部監査人
吉成 英紀〈ゲスト講師〉(有)吉成コンサルティング代表取締役、コンサルタント。慶應義塾大学商学部卒。大手監査法人にて、不良債権に伴う債権査定業務、外資系銀行監査および、コンサルティング業務に従事する。「経理実務」「数字の読み方」(大栄出版)他共著多数。
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