吉成
そう考えると、トップの意思や企業風土というのは大きいですね。たとえば私たちは財務研修をやっていますが、財務から少し離れた話をしたときに目を輝かせる会社と、自分の仕事に関係ないからと引いてしまう会社の差は歴然としています。関係ないけれど食いついてくるアグレッシブな会社は、何かに気づかなければいけないと分っているんです。でも、ただ「来い」と命令されて来たという人たちに教えるのは難しい。
河合
だけど、そういう思考回路にしてしまった背景に、会社の人事の成果主義があると思うんですよ。短期的な成果主義の入っている会社は研修態度も良くないですよね。いま自分が係わっていることに役立つ研修以外の研修に対しては、「なんでこんな研修受けなきゃいけないんだ」という態度になってしまいます。
評価のシステムが成果主義だと、学ぶ意味がないよね、となってしまうわけです。
僕は、企業が教育面でいちばんお金をかけなければいけないのは、管理職になるところだと思うんです。
仕事のやり方から中身まで大きく変わる、いわばいちばん断層があるところで、僕はここは「転職」だと思っ
ています。
平林
自分で仕事をする世界から、人に任せていく世界に変わるわけですよね。
河合
そうです。まず課長になるところで相当肉厚の教育をしないといけないのに、まだマスオさんのように誰でもなれるという感覚が残っていて、重要性が理解されていません。
金子
新任取締役研修をやったとき、「会計の勉強するの初めてだよ。こんなことしたくないから営業になったのに」という人がいました。その発言は非常に象徴的な発言で、まともに会計の勉強をしなまま取締役になる人が少なからずいるということです。そういう人たちが、取締役会で澄ました顔して決算の承認なんかしているわけですから、一体何を承認しているだろうと思いますね。とても恐ろしいことです。
吉成
我々には、日本企業に強くなって欲しい、優秀な人材を増やしたいという思いがあるわけですが、では具体的に何が提供できるのか考えていきましょう。
金子
知識を仕入れるだけなら本やネットでもできます。私が伝えたいと思うのは、いかに考える頭を持つか、ということです。単に良いものをより安く作ればいいという時代ではなくなりましたから、これからは「創造型」の頭を作っていかなければいけないと思うんです。
平林
考える力は、私もすごく大切だと思います。最近、私が気になるのは、新人研修をしていてもすぐに「答え」を求めてくるということです。ビジネスの世界には答えがいくつもあるのに、一つに答えが決まってないものを与えるとすごく混乱するんです。
金子
そうですね。「正解を教えてください」とか、すぐに役立つツールや手法を求めてきます。コストマネジメントの話でも、そもそもコストとは何か、という話からこちらは入るのですが、研修の後で言われたことは「今日の研修は考え方としては良かった。でも具体的な手法が聞けなくて残念だった」(笑)。
河合
まったく同じことが「人」の問題でも起こっています。僕たち講師仲間でもよく話すのですが、熱い講師ほど考える力を与えたい、もともとの根っこのところから解けるようにしてあげたいと思うので、すごく哲学的なところから始めるんです。だけど、そんな内容は受講者に受けない。それで後でアンケートにさんざん書かれます(笑)。
吉成
アンケートを取ると、受講者が一気に評論家になっちゃうんですよね。
河合
僕は、そのアンケートが良くないと思うんです。だいたいアンケートで受講者満足度の高い研修ほど、やってはいけない研修なんですよ。それは答えを教えたり、具体的な事例をたくさん与える研修ですから。
僕たちが良い研修だと考える、答えを用意しない、考えさせるタイプの研修は満足度が非常に低いんです。
金子
そこは講師のジレンマですよね。大事なことは伝えたい、でもアンケートに良く書かれたい(笑)。
河合
ですから僕は、アンケートはやめましょうと言っています。アンケートを取ると、講師もどうしても答えを与えるタイプの研修になってしまうんです。もしアンケートを取るなら、僕が良いか悪いかよりも「今日の講演を受けて、あなたは明日から何をしますか?」といった内容にしましょうと提案しています。
金子
受講者が自分に対して振り返りができるアンケートはいいですよね。